段駄羅の考察  

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 段駄羅のルーツ(発祥)、段駄羅の形式(作句の原則)については、諸氏のHPや書物に詳しいので、ここにはそれらの説明は省略します。それよりも、自分の作った段駄羅について、中の7音(中7)をもじるに当たり、許容されうるどの原則に則っているのかを考察します。

☆許される文字の置換

許容原則 1 清音を濁音(半濁音)に置換すること
           枯れススキかな(かれすきかな)→彼、鈴木かな(かれすきかな)  清音を濁音に置換
           ボンズに逢えて(ンズにあえて)→ポンズに和えて(ンズにあえて)  濁音を半濁音に置換 

許容原則 2 清音(濁音)を促音、拗音に置換すること
           朝マック買い(あさまくかい)→「あさま」着くかい(あさまくかい) 促音を清音に置換
       往復券で(おうふ
けんで)→王復権で(おうふけんで) 清音を促音便に置換
       三種の神器(さんしゅのじんぎ)→三枝の新規(さんのしんき) 拗音を清音に置換
  促音(っ)と拗音(しゅ、きゃ、など)は1音に数えるので、次のようなものは許されない。

  駄目な例 
少子(しょうし)×使用し(しようし) 拗音を2文字の清音に置換して1文字増加している。

許容原則 3 格助詞「を」を「お」に置換すること
            兜をかぶり(かぶとかぶり)→株十日ぶり(かぶとかぶり

許容原則 4 係助詞「は」を「わ」に置換すること
           換気は待って(かんきまって)→感極まって(かんきまって)
       
日本絵画は(にほんかいが)→日本海側(にほんかいが
  
駄目な例 黄色く映えて(黄色加えて)は、え(動詞の語幹)をくえ(動詞の語幹)に置換しているので許されない。

許容原則 5 格助詞「へ」を「え」に置換すること
           田へ続く道(たつづくみち)→絶えず継ぐ道(たずつぐみち) 許容原則1・6との複合型              

許容原則 6 サ行の濁音のうち「じ、ず」をタ行の濁音「ぢ、づ」に置換すること
           片付きました(かたきました)→勝たず来ました(かたきました)
       
するか、能登路の(するかのとの)→駿河の土地の(するがのとの) 許容原則1との複合型
           長野は辛い(ながのはらい)→長の患い(ながのわらい) 許容原則1との複合型
       ドリル1巻(
りるいかん)→鳥類図鑑(りるいかん) 許容原則1・2との複合型
  駄目な例 じ、ず以外の音 自然解凍(し
んかいとう)×紫電改等(しんかいとう)

許容原則 7 長音「〜ー」を「〜あ・い・う・え・お」に置換すること
           シュート曲者(ューくせもの)→姑、曲者(しゅうとくせもの) シュート(syuuto)を姑(syuuto)に置換
   駄目な例 激辛カレー→劇から華  レー(ree)を麗(rei)に置換しているから微妙に駄目。

許容原則 8 「いう」を「ゆう」に置換するこ

許容原則 9 新・旧仮名遣い使いの「いひ→いい」・「せむ→せん」・「いふ→いう」などの置換

許容原則10 「とう」を「とお」のように表記は違うけれども同じような発音になる文字に置換すること
            10日移動の(とおかいどうの)→東海道の(とうかいどうの)
            どうなってます(どうなってます)→ドーナツ出ます(どおなつでます)

☆絶対原則 上の句と下の句には1音の増減は許されるが、逆に中の7音は絶対に守らなければならない。
           メールにて 愛を告白(藍を濃く刷く) 伝統芸(でんとうげい) は許されるが、
  
     浣腸が良いの(かんちょうがいいの)×官庁街の(かんちょうがいの) は許されない

☆出来た句の事実考証

 もじりの結果句が出来上がっても、歴史的な考証、事実認定などが出来ないものであったら、それはもじりが完成していても段駄羅が成立したと呼べないかもしれません。この点も作句の制約に加えておくべきかと思います。
           @黒昆布炊いて(黒子舞台で) A悠々の 旅とグルメで(旅人久留米で) 歌を詠み 
と詠んだ場合これが事実的にまた歴史的に考証されなければいけないと思うのです。私は、こういう場合にはインターネットの検索を使って、検証を試みることにしています。@については、「羅臼こんぶ」は「利尻昆布」とともに、産額が最も多く、別名「黒昆布」とも呼ばれ、という件を見つけましたし、Aについても、大伴旅人は「神亀4(727)年に大宰帥に任じられ大宰府へ赴く」という記録が残されているので、歴史的な考証は出来るのではないかと考えています。

☆許される文字の種類

使用許可1 カタカナ(外来語)を使用すること
           整骨院の(せいこついんの)→聖子ツインの(せいこついん)
           

使用許可2 アラビヤ数字を使用すること
           関西汽船(かんさいきせん)→艦載機1,000(かんさいきせん

使用許可3 ?・!・「」等の記号及び句読点を1文字と数えないで使用すること
           以外鯛です(いがいたいです)→胃が痛いです(いがいたいです)
       重い
!重いの!!(おもいおもいの)→思い思いの(おもいおもいの)
       
落選の(れんらくせんの)→連絡線の(れんらくせんの)

使用許可4 英単語をかな読みして使用すること
           You,成功者(ゆーせいこうしゃ)→郵政公社(ゆうせいこうしゃ) 許容原則7の特殊型

☆作句のテクニック

 段駄羅の作句の中七のもじり方として、上記の許容される中7文字の置き換え及び使用の許される文字種・記号などを駆使して、次に述べるような方法に分類できる。
 結果できあがったもじりが、もじりの前後において言葉の切れ目に変化がない場合と、切れ目が複雑に変わっているものとがある。切れ目に変化がなくて、言葉が変わっているだけのものを棒もじりと呼ぶ。文字通り変化の少ない真っ直ぐなもじりと言うことを意味している。以下のその1、その2、その3などが例として挙げられる。
 これに対して、言葉の切れ目が複雑に変わっているものを本もじりと呼んでいる。その4、その5などが本もじりの例であって、棒もじりに対して、評価の高い作品になる。

その1 名詞の熟語部分だけを単純に他の熟語に置き換えるストレートな作法。作りやすいが面白みが少ない。
           仏僧ですよ物騒ですよ  洋食につく要職につく

その2 名詞の熟語を意味の違う名詞の熟語に、7音全部を置き換えると、少し味があるものになる。
           兼好法師健康奉仕   阪神付随半身不随

その3 名詞の熟語を名詞の熟語と他の品詞の組合わせに変えるもので、言葉の切れ目は不変
           下位が完勝絵画鑑賞 根よく待とう混浴纏う

その4 言葉の切れ目を変えるもので、このあたりになると結構味がある句が出来る。
           愛知/急迫→愛、/地球博 歯科/医師会で→司会/司会で

その5 言葉の切れ目、品詞など複雑に変化させるもの、創っていても楽しい。
           朝マック/買い→「あさま」/着くかい 厳しい/から→イカ飯/胃から

その6 中七を下の五音に繋げて意味を分けるもの
           よく振ってから→よく降って、空 梅雨回避  悪しく咲く花→足臭く、鼻 曲がりそう

その7 中七を上の五音に繋げて意味を分けるもの
           蓄えも 無く、始終空→鳴く四十雀

その8 許容原則内でかな文字に変えるもの
           リクルートです→ルートです

☆上の句の完結性

 出来上がった段駄羅の中には、上の句(上の5音と中7音)が文章として完結しない表現で終わったしまうものがある。上の句の中七音が助詞・助動詞で終わるような場合がそれで、ルール通りに出来た作品であれば、それはそれでよいのではあるが、出来れば上の句だけで完結した表現の作品がよいと思う。次にその各々の例を並べておきます。
           強行軍 10日移動(東海道の) 宿場町 (上の句未完結型)@
       
守衛でも 倉庫番でも(そう拒んでも) 逃げられぬ(上の句未完結型)A
       結婚の 固い約束(堅い役、即) リーチする 
(上の句完結型
           記念日に 思いで作り(重い手作り) マグカップ (上の句完結型
 @の場合だと、下の5音に八甲田、Aの場合だと引き受けるが続くと状況がより鮮明になる。そんな意味から上の句が完全に文章として完結していない感じが残る句、そうでない句よりも評価がよくないのではないかと思う。

☆作句の手法

 許される規則、許されない規則などを守りながら、句を作る方法(手法)について述べてみます。作句の個別テクニックとは別に、句を読むことに制約(課題)を設けて行う方法などもあります。次にそれらについてここに説明をする。

中七音の見つけ方
 段駄羅においてもじりの元になる中7音を探し出すことが最初の作業になる。元の中7音が見つからないことには、もじることが始められないわけですから、これをどうして探し出すかが、作句の手法の一つになります。以下に私がする方法を色々と書いて見ます。
 車内の吊り広告、街のポスターのコピー、パンプレットの短いフレーズなどを直接の中7音に使ったり、7音に足りない場合に助詞、助動詞など補って中7音を作って使う。また、見つけたフレーズから連想して別の中7音を作ってみたりする。
 例えば、”伝統的な様式を持つ町屋が”、と言うフレーズを見つけた場合に、伝統的な・様式を持つ・伝統の街・町並続く・伝統芸は・飛鳥様式などと膨らませて行き、出来た中七音を元にもじりを探し出す作業をする。闇雲に中7音を思い浮かべてもなかなか浮かんでこないものであるから、この方法はなかなかに有効です。電車に乗っていて「乗務員室」の標示から「常務陰湿」というまったく単純な棒もじりの句ができたことがありました。播州赤穂(晩秋赤う)の中七音は電車の中吊り広告を見ていて見つけたものでした。この応用から他にも沢山出来ています。
 パソコンで文章を作成しているときに、思わず予想外の変換がされて、中7音が見つかるだけでなく、もじりまで出来てしまうことがあります。このことは、見つけた中7音をもじって作句を済ませあとパソコンに書き込んでいて、別のもじりを見つけてしまうことが時々あります。煮炊き物です(似た着物です)はそんな作品の一つです。
 何も手許に参考する文字がない場合には、動詞から始まるフレーズを思い浮かべるといくつか思いつくものです。走る、飛ぶ、食べる、寄る、描ける、履く、施す、連なるなどを思い出して、走り出したら、食べてみません、寄っていきます、履いてください、施しを受けなど中七音を作ります。寄ってかないか(酔って家内が)、履いてください(ハイテク多彩)はこうして、消灯後ベッドにいるときに出来た作品です。
 中の七音を直接探す方法とは別に、上の5音を決めてこれに続く中7音を考えると、何もなく闇雲に中7音を考えるよりも容易なとがあります。仮に自分で上の5音を決めて中7音を考え出す作業であるから、上の5音を次々と変えて中7音が出来やすいものにすればよい。この後の尻取句の項でも述べますが、上の5音を決めるという制約をつけて作句する場合は、自由に上の5音は自分で選べないことに比べたら、逆に制約がヒントになるわけです。
 段駄羅を、段駄羅は、段駄羅の、段駄羅でなどで始まる作品はこうして出来たものが多いです。

兼題句
 中の七音に与えられたテーマ(兼題)を読み込んでもじるものです。例えば「黒」が与えられたとき、中7音に直截的に黒と言う言葉を読み込むのもよし、黒を強くいイメージ出来るものを読み込んでも良い。黒をイメージするものとして、カラス、鵜などの物の名前や暗夜、停電など状況が黒をイメージできる言葉が考えられます。
 兼題は作句をするときの制約となるより、中の7音を探し出すヒントにもなりますから、自由に作句するよりもかえって作品が多く生まれることがあります。そこで、兼題を一つの制約としてとらえ、作句の手法を駆使するのであれば、中7音のもじりの前と、もじった後の両方に共に兼題を読み込むことにすることも考えられます。

尻取句
 段駄羅においては下の五音を次の句の上の五音として、尻取り状に作句することがあります。歌を詠む世界に昔から連句という手法がある。これは、575の長句に55の短句を返す読み方、これに答えて575の長句を返す、これを繰り返すものである。連句は俳諧とも呼ばれ返す句に自由度があるのに対して、連句の元となった連歌には言葉の制約などがあって、自由度において少し窮屈なものであったようです。
 連句(俳諧)とは連なる句という意味であり、先に読んだ句の意味(イメージ)を繋げてゆくもので、文字を繰り返すものではない。段駄羅の場合はその意味から、尻取句と読んだほうが正しいのでしょうか。
 尻取句を自分ひとりで作り続けるのは少しばかりエネルギーが必要ですが、前の他人が読んだ句の下5音が与えられて作句する場合には、兼題句の項でも書いたように、これが制約となるより中の7音を探し出すヒントにもなります。
 尻取句を自分ひとりで繋げて詠んでみましたのでご覧下さい。作品の中にリンクしています。

英文にもじる
 中7音の日本語を、英語のフレーズに置き換えるという制約をつけて読むことに挑戦してみた。置き換えには日本語の場合と同様の決まりの中で行うことはいうまでもないことで、ただ、英文(英語のフレーズ)を仮名標示した場合に、その決まりに従っていればよいことにして作句する。
 日本語のように50音字の組み合わせで、どんな言葉も表わせる言語であり、英語のようにアルファベット26文字の組合せで個々の単語(言葉)を作って、これを並べて意味を表現しなければならない言語であるから、英語のフレーズ同士をもじって段駄羅を作句することは事実上不可能なことではないかと考えられる。その意味でも、段駄羅の言葉のもじりは、日本語に特有の文化であると思うのですが。
 作品は沢山出来ませんでした。これは制約(英語のフレーズに置き換える)のハードルが高いことによることもありますが、私の英語力の乏しさに依るところが大きい結果でもあります。作品の中にリンクしています。

回文
 作句の制約として、上の5音と下の5音を同じ文字列のものにすることを試みました。これは一寸したきつい制約になりますけれども、作句して出来上がったときの快感があります。
 言葉遊びの有名なものに回文と言うものがあります。今朝食べた鮭(けさたべたさけ)が回文の一つの例です。前後どちらから読んでも同じ言葉になっています。段駄羅の場合のここでタイトルした「回文」とはその意味で大いに違うものですが、他に良いネーミングが思いつかないため安易に回文としてみました。言い出せん 内気なもので(打ち気な者で) いい打線の例のように、いいだせんで始まっていいだせんで終わっている。他に何か良いネーミングを思いついたら後日変更します。作品の中にリンクしています。

なぞかけ風に上の句を創る
 
上の5音と中の7音のいわゆる上の句をなぞかけの問い、○○とかけ△△と解くと読み、中7音をもじって下の句に繋げることを試みてみました。この場合、上の5音が、○○とかけで限定されることと、中の7音を、△△と解くもしくは△△と解きと変化させるくらいのもので、それを使ってもじる言葉が、届き、届く、〜と毒、〜と土器、渡独、ひと時、不届き、人と来、糸解きなどそれほど多くないため、作句に自ずと限界があるように思う。
 更に、上の句をなぞ賭けとして成立させることが大前提であるから、その結果を持って中7音をもじるわけであって、制約も多い。とにかく創ってみました。作品の中にリンクしています。

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